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2019-04

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潜水服は蝶の夢を見る (2007年/仏)

雑誌「ELLE」の編集者にして美しい妻と子供三人をもつジャン=ドミニク・ボビー(マチュー・アマルリック)。ファッション業界特有のエレガントでゴージャスな仕事に明け暮れ、愛人もいる。
そんな文字通り“完璧”な人生を歩んでいたジャンだったが、突如としてロックト・インシンドロームという難病を発病し、全身麻痺に陥ってしまった。手を握ることも、唇を動かすことも出来ない。唯一動かすことが出来るのは、左目だけ。
不自由な潜水服に身体を押し込められ、深海の彼方へと落ちていくようにジャンの心もまた深く沈んでいくように思われた。しかし言語療法士(マリ=ジョゼ・クローズ)が瞬きだけで言語を伝達する手段をジャンに教えたことで、彼は自分の人生に向き合っていく。

この自分の人生に向き合う手段としてジャンは自伝を書く(実際には文字を伝え記録してもらう)。本を著すという創作的行為によって常にジャンの歩みは未来へと向かっており、決して過去に囚われている訳ではない。だからこそそれまで“うっとおしい”と思っていた妻と子供と戯れる休日が尊いものとして感じられ、“何もない”と思っていた外の風景が美しいものとして目に映るようになっていく。
この前向きであるということ、自分を大切にするということ(決して自己中になるということではない)がどれだけ周囲の人々にとって励みに、幸せになることか。現代の病人や老人、もっと云えば何の支障もなく日々を生きている者のほとんどが、この心遣いの第一歩を忘れているのではないかということに気付かせてくれる。
また映画としても、ジャンが前向きであることで、観客は胃の痛むような思いを終始強要されることはなく、優しい気持ちで見守ることができる。

この映画ははじめ病床に横たわるジャンの目線で描かれていく。目を開けたばかりであれば周囲の光景は霞み、瞬きをすれば一瞬暗くなり、涙が出れば映像は滲む。これは大変に革新的で驚かされる表現であるが、あまり長くこの状態が続くと閉塞感も与えてしまう。
また必死で文字を一文字一文字伝えていく様子が執拗に描かれ、重苦しい空気を感じてしまうかもしれない。
したがってこの映画を観る人は、“辛抱づよい人”であることが要求される。

そしてそれに加え、想像力が豊かである人は、十分にこの映画を楽しむことができるだろう。
ジャンに与えられた自由は、左目の瞬きのほか、記憶力と想像力であった。この想像力を最大限に発揮して、ジャンは蝶の羽を得て空間的にも、時間的にも自由に飛び回る。
たとえ自分の身体に縛り付けられようとも、想像力があれば、無限の自由が約束される。
この瞬間、ジャンの酸素チューブに繋がれた潜水服は、へその緒に繋がれた赤子のように純粋な世界に包まれている存在であるように僕には感じられた。
この意味で、足腰が立たなくなって家から出られない年老いたジャンの父親が
―おまえも私も似た者同士だ。
と云った、その言葉は切実である。
なぜならば、いまのところ不自由なく暮らしている私たちとて何らかの囲いの中に拘束されているという意味で“似た者同士”であり、そして同様に自らのたった一リットル程の脳が活動しているかぎり、無限に世界を広げていくことができるのである。

目論んでいた現代版「モンテ・クリスト伯」の創作は諦めざるをえなくなったが、それに代えてジャンは自伝を綴った。これによって彼は“復讐”よりも美しく自らの人生を取り戻すことができたのだろう。
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● COMMENT ●

潜水服

この映画の前半、瞬きによる意思伝達法を習得するあたり迄はひたすらジャンの視点から見た世界しか映らなくて、見る者を苦しめる。(なんかこの手法は森鴎外の「雁」に通じる所があるかもと思った)
その後は彼を客観視する視点で描かれるが、前半がとにかく冗長であると思える。小説だったら恐らく読むのを止めていただろう。

そう私はまさに管理人の言う“辛抱づよい人”ではないのである。
映画全体を通じてのテーマとかは良いと思うが、とにかく前半の苦しさが強すぎる。

確かに、観る人によって――特に主人公に感情移入しやすい心優しい人にとっては、苦しい映画かもしれないですね。
最後までの鑑賞、御疲れ様でした。

早速主題歌をアレンジしてみたよ!
http://jp.youtube.com/watch?v=ATL7OGx1Lnw

良いできですね。
欲を云えば、“~baby...”のところをオリジナルのように溜息をつくような印象をだしてみてはどうでしょうか(笑)
歌っていたのは奥さんの役をしていた女優エマニュエル・セニエだったのですね。偶然彼女のデビュー作「フランティック」を観ましたよ。


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晋撰堂

Author:晋撰堂
晋撰堂は京極夏彦の京極堂シリーズにかぶれていた頃に命名。
自分の名前にも由来していますが、文化的娯楽作品から気が向いたものを取り上げてレビューを書いていこうと思います。たまに雑記と称して日々の雑念も放出します。
ただ問題は、ほとんど更新をしないということ。休眠状態を常としている現状ですが、もっと気軽に書けるよう努力してみようかと思ったのも、本日の気の迷いかもしれないです……

コメント、リンク等も何卒御気軽に。

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