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2019-01

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自由死刑 島田雅彦著(集英社)

―あなたは死刑制度に賛成ですか、それとも反対ですか?

久しぶりに更新されたと思ったら、冒頭からヘビーな文が目に飛び込み思わず身を引いてしまった人も多いかもしれない。しかし安心されたし。これは僕の勘違いに過ぎなかったのだから。

昨今、死刑制度の是非が世相を賑わせている。僕にしてみれば死刑ほど「する側」と「される側」にとって都合の良い刑はないと考えるので、その論争は無意味に感じてしまう。そしてこのような考えを持つが故にこの本の題名はひどく魅力的に思えた。
しかしながら僕の期待は見事に裏切られた。僕は冒頭のようなテーマを想定していたのだが、それは単なる勘違いに過ぎなかったのだ。
自由死刑とはつまり自殺のことだ。

この物語の主人公である喜多善男は夢の中で“自由死刑”を宣告され、一週間後の自殺を決意する。
しかしこの他人の自殺を上手いこと儲け話に結びつけようとする男に出会ってしまったことから、喜多の“有意義な一週間”は狂い始める。
元AV女優と自殺常習犯とランデブーし、昔の恋人を襲撃し、臓器売買契約を結ばされ、アイドルと殺し屋を誘拐する。
果たして喜多は無事に(?)自殺を遂行することが出来るのだろうか?

自殺を考えることは誰しも経験のあることだと思う。
しかしそれを人生の軸に据えて余生にすべきこと、したいことを考えでしていくと、想像力に乏しい大抵の人々は同じところに行き着く。そう、酒池肉林だ。
この、いわば自由死刑のための儀式というべきものを成し遂げるのは容易ではないことに喜多善男はまず気付く。
なにしろ死を決意している人間であるにもかかわらず、その儀式は相当の気力と体力と金――つまり生の実感が必要だからだ。
そして自分の過去を忘れよう、忘れようと日々を消化している人間が自殺することは、その生と同様に死もまた無意味であり、周囲の人は彼の死を最後の冗談として笑うことで初めて微々たる意味が生じる、くらいにしか考えていなかった自らの自殺がこの社会にあっては全く容易でないこと、全く自由でないことに喜多は気づく。
この過程が時に滑稽であり、時に壮絶であり、興味深く、僕の勘違いをもろともせず物語に引き込んでいく。
また後半に散見するキリスト教とのからみが個人的に面白かった。
カトリックに少なからず縁があり、しかしながらイエスの説教くささに鼻白むところがあり、いささかアレルギー反応を示していた僕にとって、イエスとて真なる自由を求めた一人の人間であって、自由を成し遂げた故の“特異性”からその後の物語において説教的な役回りをになっているのだと認識するようになり、嫌悪感も少し和らいだ。

小説とは読者にただ喜怒哀楽の感情を生じせしむるだけのものではないと思う。
小説とは読者の世界観に新たな物語を吹き込み、その小説からもたらされた新たな認識が読者の世界観を再構築する手助けをするものだ。
その意味で本作は成功をみたといえるだろう。

「自由死刑」というショッキングなタイトルに挟まれ葉巻を燻らす島田氏本人の写真が装丁されている表紙は、いつもながらにナルシシズムに溢れており、その確信犯的なところに苦笑する。
しかし躊躇することなく手に取ってみることをおすすめしたい。
特に村上春樹作品のように虚構のなかにある現実に身を浸すには気力がなく、石田衣良作品のようにあたかも現実のように作られた虚構を駆け巡るには体力がない時には――。
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晋撰堂

Author:晋撰堂
晋撰堂は京極夏彦の京極堂シリーズにかぶれていた頃に命名。
自分の名前にも由来していますが、文化的娯楽作品から気が向いたものを取り上げてレビューを書いていこうと思います。たまに雑記と称して日々の雑念も放出します。
ただ問題は、ほとんど更新をしないということ。休眠状態を常としている現状ですが、もっと気軽に書けるよう努力してみようかと思ったのも、本日の気の迷いかもしれないです……

コメント、リンク等も何卒御気軽に。

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