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2019-04

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ヴィーナス (2006年/英)

人は誰しも仮面を被って生きている。
ときにそれはあなたを圧迫して、あなたはそれを己から引き剥がしたいと云う衝動にかられるかもしれないし、ときにそれはあなたの全てを覆い尽くそうとし、あなたは息を詰まらせるかもしれない。
しかし私たちは仮面を付けずして生きてはいけない。
それがなくては、あまりにも無防備だ。

そこで私たちは、仮面を外し、素のままで生きる幸福な自分の姿を夢想する。
しかしそれは叶わぬこと――。
ならばいっそ、己の仮面を、自分の最も楽しめるものへと変えていけば良いのではないだろうか。

この映画は、それを悉く実践して生きた老人の物語だ。

モーリスは70代にして現役の俳優である。若かりし頃は二枚目俳優としてそれなりに活躍していたようであるが、いまは死体専門の役者に落ちぶれていた。
そんなある日、同じ俳優仲間にして長年の親友から「姪を手なずけてくれ」と頼まれる。
女好きのモーリスは勇んでその姪を見に行くが、そこで目にしたのは、「モデル志望」と宣言しつつもスナック菓子をバリバリと頬張る、御世辞にも美人とは云えないような娘だった。
しかしモーリスはその娘ジェシーの根底に潜む美を敏感に感じ取り、デートに誘ったり、モデルの仕事を斡旋したり、更には求愛ともとれる行為をはたらくのだが......!?

独りになると「しっかりしろ!この老人め。」と自分を叱咤し、前立腺の手術に際しては不能になることに怯え、そして元妻の前では老人を曝け出す。
しかしそれ以外の場面では、お茶目な精力絶倫じいさんの仮面を決して外さず、楽しむ。
特にジェシーに斡旋したヌードモデルの仕事風景を覗こうと繰り広げるドタバタも、自らの滑稽な様子を含めて、モーリス自身が楽しんでいる姿が窺える。
そしてその老人臭と激しい性愛を同時に漂わせるモーリスを演じるピーター・オトゥールも、自らを投影するかの如く活き活きと演じている。
「アラビアのロレンス」を演じたときのような青い目の美しい、逞しい青年の姿はもうない。しかしそれに失望することなく、歳相応の役を見事に演じきったピーター・オトゥールの心意気は素晴らしい。

あらすじだけを追ってしまえば、一風変わったロマコメと受け取られてしまうかもしれないが、ここまで読んでもらえば分かって戴けたはず――これは列記とした人間賛歌の映画だ。

個人的には、丁度劇中で引用されるシェイクスピアの韻文「Shall I compare thee to a summer's day?」の一節を暗誦しなくてはならない状況にあり、非常にタイムリーであった。
シェイクスピアの引用し、“ヴィーナス”ことジェシーに重なるヴェラスケスの絵画「鏡を見るヴィーナス」をモチーフにする演出も、谷崎潤一郎の「瘋癲老人日記」を参考にしたと云う脚本も機知に富んでいてこの上ない。
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晋撰堂

Author:晋撰堂
晋撰堂は京極夏彦の京極堂シリーズにかぶれていた頃に命名。
自分の名前にも由来していますが、文化的娯楽作品から気が向いたものを取り上げてレビューを書いていこうと思います。たまに雑記と称して日々の雑念も放出します。
ただ問題は、ほとんど更新をしないということ。休眠状態を常としている現状ですが、もっと気軽に書けるよう努力してみようかと思ったのも、本日の気の迷いかもしれないです……

コメント、リンク等も何卒御気軽に。

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