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2019-04

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転々 (1999年双葉社/2006年新潮社)

まだ少ないながらも、ここで紹介している本の全てが新潮社より出ているものなので、晋撰堂店主は新潮社ばかりを贔屓している、とどこからか不満の声が聞こえてきそうだが、決してそのようなことはない。お気に入りの京極夏彦氏の作品は講談社と角川だし、時々読む藤沢周平氏の作品も、石田良衣氏の作品も文春文庫だ。極めて満遍なく読んでいるのだが、何故か紹介したい本がいつも新潮社の本になってしまっている、と弁解しておきたい。念のため。
まぁ、確かに新潮社は“新潮社装丁室”という独自のカヴァーデザイン部門があるように、本に対する真摯な姿勢が窺えて好感を持っている。紙質が悪いという面もあるが......

さて、話が逸れてしまったが、今回紹介するのは藤田宜永の「転々」だ。既に映画化も決まっており、出演はオダギリジョー、三浦友和等だ。原作を読んだ限りでは、オダギリは良いとしても、どうしても三浦のイメージがなく、できれば渡哲也にでも演じて欲しいものだ。しかも映画予告編を見たところ、原作の暗さは感じられず、とてもコミカルな雰囲気だったので心配は募る一方だ。

さて、またも本筋から逸れてしまったが、これからは本の話に集中したい。
まずこの本を読むにあたって注意しておきたいのは、ラストでまるで見知らぬ街に独りとり残されてしまうかのように突き放される衝撃が待ち受けているということだ。
終盤の展開を考えると、気分良くハッピーエンドにも出来ただろうが、それを避けるところが――賛否両論あろうが――この本が人の心に残る所以なのだと思う。
しかし、そこに至るまでに、まさに転々と様々なことが起こる。

主人公・竹村文哉は実の親に捨てられ、養父母はろくでなし、そして自分は大学を休学し、借金は積もる一方、さらに下宿先の大家からは立退き勧告を受け、まさに不幸を絵に描いたような男だ。そこに取り立て屋風情にして「天国と地獄を一度に見ているような」男・福原が現れる。福原は「百万円払うから俺と一緒に東京を散歩しろ」と奇妙な提案を文哉に申し渡す。文哉はいぶかしむが、他に選択肢もなく、その小旅行に付き合うことになり......!?

二人が歩を進めるにしたがって、様々な人と出会い、事件と遭遇し、どこまでも変わり映えのしない街並みを眺め、どことも異なる街のにおいを嗅ぎ、自分たちの過去が鮮やかに甦っていく。そのそれぞれの街の描写がとても鮮やかで、知っている街のことだと
―うんうん、そうだよなぁ。
と思わず頷いてしまい、知らない街のことでも頭のなかにリアルな地図が広がっていくような錯覚を覚える。
その鮮やかさは主人公等が思い起こす過去の出来事も同じで、妙に生々しい。それもそのはず。主人公たちにとって、その語られる話はまだ「過去の出来事」にはなっておらず、常にフィードバックされているものなのだろう。したがってこの歩みは、その出来事を過去のものにしていく苦しい作業でもあるのだ。
人生とは多かれ少なかれドロドロとしたものだが、主人公の人生(不幸な出生やストリッパーとの情熱的な恋(!!))は特に際立ってその部類に入る。しかし本作からはグロテスクな雰囲気は感じ取れない。その理由は主人公の乾いた感情と、福原の粗雑だがどこか温かい人柄――或いは東京の空気にあるのかもしれない。
変温動物になってしまったかのような人間が、東京の街の温度にその人生を左右されてしまうのか、或いは冷たいものと熱いものを持ち合わせる人間が、意図せずそんな東京の街を創り続けているのか――僕にはわからないことではあるが、きっとその理解の及ばないことも含めて、人生はそんなものなのだと思う。

興味を御持ちになられたら、是非御手に取って戴き、車と電車と、人々の靴音の途切れない東京の街で読んで戴きたい一冊だ。
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プロフィール

晋撰堂

Author:晋撰堂
晋撰堂は京極夏彦の京極堂シリーズにかぶれていた頃に命名。
自分の名前にも由来していますが、文化的娯楽作品から気が向いたものを取り上げてレビューを書いていこうと思います。たまに雑記と称して日々の雑念も放出します。
ただ問題は、ほとんど更新をしないということ。休眠状態を常としている現状ですが、もっと気軽に書けるよう努力してみようかと思ったのも、本日の気の迷いかもしれないです……

コメント、リンク等も何卒御気軽に。

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