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2019-04

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東京湾景 (2003年/新潮社)

僕はほとんど恋愛小説を読むことはないのだけれど、この本はお気に入りの作家である吉田修一によるものであったため読んだ。
吉田作品を読むとき、その鋭い文章から鋭利なナイフを喉もとに突きつけられているような感覚を憶えることがある。しかしこの作品は登場人物が温かく見つめられているようで、比較的安心して読んでいられる。それでいてこちらが赤面してしまうような甘い言葉の重ねあいも少ないこともありがたい。

品川埠頭の倉庫街で働く青年・亮介が携帯の出会い系サイトで知り合った「涼子」と名乗る女性と25歳の誕生日に出会ったことから物語りは始まる。嘘を重ねて真実を隠し、遊びとも本気ともわからない駆け引きのなかで二人が求める愛のカタチとは......!?

二人の人物(亮介と「涼子」)の設定が見事。
方や亮介は高校卒業後すぐに品川埠頭の倉庫街で肉体労働に勤めるようになり、住居は会社の狭い寮で生活も決して良いものではない。また自分の言いたいことを上手く言葉に表すことができない幼さが残り、「涼子」を好きになってからも、過去に熱烈に愛した女へのコンプレックスや今の彼女へのうしろめたさ、「涼子」の男関係といちいち振り向いては切り捨てて「涼子」に歩み寄っていく。
方や「涼子」は品川埠頭の対岸にある華やかなお台場の一流企業でバリバリと働き、生活も潤っていながらも、恋愛にたいしては虚無感を抱いている。しかし亮介に惹かれるにしたがって世界は「亮介」と「わたし」の関係に変わり、他の雑多なものには目を向けなくなっていく。

人気がなく大きな倉庫が乱立する寒々しい品川埠頭に対して、いつも人の笑い声が響いていそうで華やかなお台場――その対照的な生活空間設定に加え、また恋愛感覚も少しづつ異なる二人ではあるが、お互い「心で繋がり合う恋愛」を求め、それでいてなかなか飛び込めないで進退を繰り返すゲームの行方から目が離せない。
また才能の枯渇に悩み、亮介と「涼子」の恋愛の行方をそのまま小説にしてしまおうとし、そのゲームに横槍を入れてくる恋愛小説家の青山ほたるの存在も面白い。

僕も羽田空港を利用する際は必ず東京モノレールに乗車する。その度になんとなく目にしていた味気ない風景も、この小説を読んだ後では色づけされたように、今までとは違った風景に見えるかもしれない。


余談ではあるが、僕は小説を読むときに「この小説の雰囲気にはこの人の曲が合うな」等と考えて曲を流すことがある。ハマることもあればハマらないこともある。しかしぴたりとハマった時にはその感動は何倍もに膨れ上がる。
この本のメインテーマは絶対的に椎名林檎の「本能」だと思う(特に第五章で)。そしてエンディング(第六章)は「依存症」でシメたい。偶然にも「依存症」の歌詞には「品川埠頭」と云う言葉も入っていることであるし。


―明け立ての夜を強請る品川埠頭に似合うのです
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● COMMENT ●

これのドラマ版はクソだけどねぇ。

つい最近この本を見つけて、はじめて吉田修一が書いたって知ったよ。
本、面白いんなら今度読んでみようかな。

ドラマは仲間由紀恵が出ていたらしいが、観てないんだよね。本はそれなりに良作だと思うよ。

勿論「パレード」(幻冬舎)が最高傑作だと信じているが、他の吉田修一作品としては「日曜日たち」(講談社)がお薦め。


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晋撰堂

Author:晋撰堂
晋撰堂は京極夏彦の京極堂シリーズにかぶれていた頃に命名。
自分の名前にも由来していますが、文化的娯楽作品から気が向いたものを取り上げてレビューを書いていこうと思います。たまに雑記と称して日々の雑念も放出します。
ただ問題は、ほとんど更新をしないということ。休眠状態を常としている現状ですが、もっと気軽に書けるよう努力してみようかと思ったのも、本日の気の迷いかもしれないです……

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